山梨県塩山市・塩ノ山の考察(2)


第2回巡検


第1回よりだいぶあいてしまったが、とにかく出発だ。AM10:30のあずさ松本行きの切符をとっている。新型車両だ。新宿を出て、隣が空席なのを確認できたのでゆっくりブランチをとる。次は立川まで止まらないのが「あずさ」の良いところだ。


 塩山に着くまでに前回の復習をしておかねばならない。行くことは決めたものの、忙しくて何もまとめてなかったからだ。
アカマツ=防風、土砂止め、飛砂防止風致林。国内に分布する常緑針葉樹として典型的な用途である。材は建築、土木など広く利用とのことだが、後背に大きな山々を控えているので、なにもこん小山より伐り出す必要もないだろう。向嶽寺だけは特別かもしれないが。

●秋葉信仰=火伏せ、防火。本山は静岡。

築地塀=壁面に引いた定規筋の数(最高5本)で格式を表した。塩で強化とは???

勅願寺南禅寺鎌倉時代亀山天皇

芭蕉=「はかなさ」の象徴、祝言に忌む。

●差出の磯=枕詞としてペアにして詠まれるが、そこから塩ノ山がどう見えるのか。

●塩=調味、防腐、発酵、脱水、釉薬、生命維持、地域間流通、浄め、塩断ち(祈願)
古代の製塩=海水濃縮−砂浜ーイオン樹脂
塩垂れる=泣く:塩=涙か


こんなところか。こういった「カード」を組み合わせることにより、閃きが生まれればよいと思う。


 八王子から年輩の女性が隣りに座った。ふだんは息子さんに松本まで車で送迎してもらうので、電車には殆ど乗ったことがなく不安とのこと。リクライニングシートの倒し方を教えてあげた。


 窓の外に「しおつ」の駅名看板が見えた。漢字で書くと「四方津」だ。そう言えば向嶽寺にある「塩ノ山の由来」に「四方からその姿が見えるため、『しほうの山』がなまって『しおのやま』となった、とあった。ここも同じようなものか。いや、こちらは郡内の津(みなと)、山から見えるということか。


 今回の一番の目的は、巡検よりもむしろ「桃の花」である。JRのパックの逆を行き、塩山駅から瀧本院、慈雲寺を経て塩ノ山の麓へ。さらに時間があれば塩山市立図書館へ赴くという段取りだ。


 ほぼ正午、臨席のご婦人に別れを告げ、列車を降り、駅を出ると早速瀧本院に向かう。しかし暑い。とにかく暑い。タートルニットの首周りに汗が溜まる感じだ。重川を越え、線路を越え、少し歩いて振り向くと、塩ノ山がきれいに見える。前回来たときよりも葉が増えたのか、こんもりとした印象だ。この辺りはサクランボ園らしく、ビニルハウスの中に桜の木が植えてある。少し考えれば当たり前ながらも、意外な光景にしばし茫然としてしまった。何とか瀧本院に着いたが、ここまでの間、中年夫婦何組かとすれ違うも、自分と同じ方向へ進むものは無し。みなコース通り進んでいるのか?桃の花は満開には早かったが、瀧本院から望む桃と山は、まあ満足のいく絵であった。来週はまさに見頃であろう。ところでふいに富士山が見たくなった。冨士を背負う塩ノ山を見たくなった。どちらの方角か。おそらく塩ノ山から東南方角だろうと見当がついたが、今の位置とはほぼ正反対に行かなければならない。次回の課題としよう。


 慈雲寺へ向かうが、とにかく暑い。瀧本院で一枚脱げば良かったのに忘れていた。慈雲寺は大イトザクラで有名だが、今年はさすがにもう散ってしまっていることだろう。私はなぜか塩ノ山に惹かれてしまった人間だ。いろんな季節の、いろんな情景の中の塩ノ山が好きだ。しかし、いや、だからこそ当分の間、自分の中で決着が付くまで塩ノ山に登ることはよしておこうと考えた。それはロラン・バルトが「エッフェル塔」の中で述べた一節と関連が深いかもしれない。「私はエッフェル塔の中のカフェにいるときに幸せを感じる。なぜならばそこはパリ中で唯一エッフェル塔を見ないですむ場所だからだ。」非常に逆説的であるのだが、私の塩ノ山に対する気持ちはこれと対極に位置するのである。すなわち、好きだからこそ、常に見える位置に在る、ということである。


 案の定、イトザクラは散ってしまっていた。しかしそれでもその樹格というか、風貌は周りを威圧する素晴らしいものだった。寺の外にはイトザクラを撮影するための大きな脚立があった。皆それに乗って、塀より頭を出しているサクラを撮るのである。しかし天邪鬼な私は、それに乗ると正反対を向き、慈雲寺から見た塩ノ山を撮ってしまった。


 慈雲寺を出ると扇状地の坂を下り、塩ノ山へ向かう。途中赤尾橋を過ぎた辺りに、天まで届くかのように直立する大木が2本あった。これはなんなんだろう。ふつうの家のように見えるが。写真は撮り損ねた。次回に期待。


 向嶽寺に着くと、塩ノ山の中腹に桜が咲いているのが見える。「アカマツ生い茂る」というのが通説なのでちょっと意外であった。
 私の記憶では、住所でいうと塩山市立図書館はこの近くのはずだった。ここまで約3時間歩き通しだったので、調べものついでにちょっと休憩できればよいと思っていた。だがちょっと歩いてもそれらしき建物は見当たらない。周りは民家と畑で人影もなかったので、あっさりあきらめて恵林寺へ向かうことにした。運が良ければ桜にまだ間に合うかもしれないと思ったのだ。それに恵林寺まで行けば客待ちのタクシーもいるだろう。足の疲れは座席を渇望しているし、タクシーなら図書館へ導いてくれるだろう。


 残念ながら恵林寺の桜は散ってしまっていたが、宝物館があったことを思い出すことが出来た。以前にも2回ほど入ったことがあるが、そのときは武田信玄公への興味だった。今回もすっかり思案の外であったが、もしかしたら「塩山蒔絵」に関わるものがあるかもしれないと思ったのだ。「塩山蒔絵」は百科事典で調べはしたものの、その絵をまだ見ていなかったのだ。
 しかしその願いも虚しく、館内には存在せず、その手掛かりすらなかった。(後日、京都国立博物館のHPに画像がアップされていたのを見つけた。)何の収穫もなく恵林寺を後にしようとする私にさらなるボディブローが続く。
 タクシーに乗り「駅から歩いていけるところに図書館はありますか」と尋ねると、「駅からタクシーで5分ちょっとのところにある市民センターの中にあります。でも町の小さな図書館ですから、あまり無いかもしれませんよ。」と言う。まあ、ここまで3時間歩いてきたことは知らないだろうが、タクシーで5分ならどんなに遠くても歩いて30分くらいだろう。またこの町、塩ノ山のことを知りたいので、いわゆる「町の図書館」は願ったり叶ったりだ。



そんなわけで着いたところは近代的な建物の一角にある塩山市立図書館だった。
そんなに大きいわけではないが、しーんと静まりかえった雰囲気に子供の頃の懐かしささえ感じられた。空席を見つけ荷物を置くと、目の前に山梨コーナー、塩山コーナーがあり、探し物はすぐに見つかりそうな気がした。めぼしい本を4〜5冊とってきて、開くといつのまにか瞼が閉じていた。


 あっという間に閉館時間の5時を迎えてしまった。コピーサービスもあるようだが、セルフではなく申込書等が必要なので、今はそんな時間はない。書名とページ数だけ控えて吟味は次回へとしよう。なんか先走りばかりのような気がするが・・・。


塩山駅へ向かいながら帰りの特急のことを考えていたとき、ハッと気付いた。前回購入した「あずさ回数券」を持ってくるのを忘れていたのだ。往きに新型あずさの指定が取れたのに浮かれ、復りの分を持ってくるのを忘れていたのだ。少なからぬショックを受けながらも特急券を現金で購入し、開示で帰途についた。

今日新たに発生した課題は以下の通り。
築地塀の筋数
四方津の地形と水運
●富士見塩山
●二本直立大木
●図書館文献