生産者VS消費者 税込表示の攻防


総額表示(税込み価格表示)が始まって既に半年以上が過ぎた。
慣れというのは恐ろしいもので、百貨店などに見られる税別価格併記の方が目障りにさえ思えてきた。消費税率UPを目論む政府としては、してやったりといったところか。


ところがそんな中、書籍だけ(「だけ」ではないかもしれないが)未だに税別表示を続けている。その理由は「税率が変わるたびに刷り直さなければならないから」だという。
しかし、どの商品にしてもそれは同じ条件だ。たしかに一点一点に価格が記載されている商品というのは少ないかもしれない。だが書籍の店頭での寿命というのはそんなに長いものだろうか。佐野眞一「だれが本を殺すのか」によると、2003年の書籍の新刊点数は約73,000点。つまり1日あたり200点もの新刊本が発行されている。それらが書店に次々と送り込まれる。返品率は38.8%と高く、そのほとんどは1週間程度で店頭から姿を消すという。


税率変更のたびに刷り直す、という点で言えば小売業も同様の宿命を背負っている。商品についているタグや棚にあるプライスカードなどは全て付け替えなくてはならない。
そう、書籍に特有なのは再販制度なのだ。小売店(書店)には価格決定権がない。だから出版側で大量の価格修正が必要になり、コスト負担が偏って大きくなるのだ。CD業界も同様であろう。
しかし規制によって守られた業界なのだから、他の業界と同様に(それ以上に)法律に遵うべきであろう。「消費者の混乱を防ぐ」という総額表示の(表向きの)目的に反し、生産者の既得権益の保護でしかない。


最近多く見られる「オープンプライス」も同じだ。
以前は「希望小売価格」がカタログやプライスカードに明記されており、消費者はそれと店頭実売価格とを比較して「お買い得度」を測っていた。しかしメーカー側はその価格の乖離を、お買い得=ブランド価値の低下と考え、オープンプライス化の流れができた。しかし消費者は価値判断の基準を一つ失い、自ら「カカクコム」などで店頭価格の比較を行い、検討しなければならなくなった。これによって、店頭での衝動買いは減ったのではないだろうか。


消費者の負担が増え、メーカー利益の保護のつもりが購買の抑制を生んでしまったのではないだろうか。