プロ化とスポーツマンシップ


日本オリンピック委員会JOC)の展開しようとしている「シンボルアスリート」という事業があることを知った。


これは各競技のトップ選手を「シンボルアスリート」として契約し、肖像権を管理する制度だ。
オリンピックスポンサーにはCM出演など好条件で使用する権利を与える。しかし、契約しなければほぼ完全に自由なプロ活動が可能になり、もちろん罰則規定はないし、オリンピック出場資格・選考についても影響はない。


この概略を見る限り、選手にとってのメリットはまったくといっていいほど無さそうだ。
現に水泳の北島康介とスピードスケートの清水宏保の両金メダリストが辞退するようだし、谷(田村)亮子や野村忠宏(いずれも柔道)、室伏広治(陸上)などとの交渉も難航している。
北島らは(1)JOCスポンサー以外のプロ的活動が制限される。(2)CM出演依頼が集中する。(3)協力金[契約金]が安い。など、不満が強いらしい。


オリンピックのアマチュア規定が有名無実化した今日、一流選手のプロ化=商品化は避けられない。
そんな中、彼らは先の条件を挙げて辞退するということだが、最も大きな忌避要因はその用途と用法について明確な説明がなく、不透明性が高いからではないだろうか。
JOCがスポンサーを集め、肖像権を売って利益を出す。この利益で何をするのか。もちろんJOC自体の運営や選手への報奨金、次世代アスリートの育成などいくらでも金はかかるに違いない。また例えば選手の派遣についても、オリンピック選手は極端に言うと選手1人でも大会に参加できるが、パラリンピックの選手は介助人を含めて最低3人での遠征となり、余計に経費がかかる。その費用が捻出できないために、実力があっても大会参加を諦める選手もいるというのだ。
こういった使用目的を明確に示せば、、一流選手には相応の義務が生じることも理解を得られ、協力を惜しまなくなるのではないだろうか。


また一流選手になれば、メーカーからの用具の提供を受けるのは必然である。メーカーから見れば選手は大切な情報源だからだ。商品開発、新機能開発には不可欠である。スポーツ用具メーカーに所属し、競技を続ける場合も多い。このメーカーとJOCスポンサーが競合した場合はどうするのか、というような点も明らかになっていなければ、選手は二の足を踏むに決まっている。


彼らは野球選手やサッカー選手と違って、プロになるためにスポーツをやってきたわけではない。
好きでそのスポーツに打ち込んで、努力が結実して優秀な成績につながり、その結果として商品価値が出た、というに過ぎない。そんな彼らは自分の権利は自分で守るしかない。その役割を代行、統括管理することは結構だが、選手の信頼を得なければ何にもならない。現にその信頼を得ることに成功した民間のエージェントの元にはあらゆる競技の多くの選手が集まっている。


そうはいってもJOCである。
「オリンピック」というのも一つのブランドである。それを活かさない手はない。
それには目的をはっきりさせることが第一で、選手の信頼と賛同を得る努力をすることが肝要である。
スポンサー探しはさらにその後の話である。
順番を間違えてはならない。